戦略
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戦略鍋:マーケティング〜中小企業診断士の偏見的戦略論

財務諸表が示す経営のルール

経営戦略とはなにか?

こんなコーマンチキな質問にオレが答えられるわけもないのだが、財務諸表の特性にそれを見ることができる。

財務諸表には@バランスシート(B/S)、A損益計算書(PL)、Bキャッシュフロー計算書があるのだが、ここではバランスシートに注目したい。なぜなら経営の特徴がよく表れているからだ。

バランスシートは図のように、資産・負債・資本で構成されている。そして、これらは「運用」と「調達」に分類されている。簡単に言えば、『資金を調達し、ビジネスというフィールドに投資し、その運用益を稼ぐ』ことが、経営の本質でもあるのだ。

つまり、自ら資金を投下(資本)し、かつ銀行などから資金を調達(負債)し、まず資金を確保する。その金で人を雇い、設備をそろえるなどし、上手く商売する。いっぱい儲ければ成長するし、儲けそこなうと潰れる。そういう構図になっているのだ。

こうして考えると、『経営戦略とは、資金運用ゲームに勝つための考え・方針』ということができる。無論、ゲームなどという扱いに批判的な声があるのも知っている。しかし、一面では確実に存在するルールが、説明した『財務諸表のルール』なのだ。

この延長線で考えれば分かると思うが、そもそも経営とは「資源の割り振りがカギ」となるだ。資源の配分を上手く行い、儲けをだした企業は勝ち、下手な企業は負け。単純なルールである。このことに気が付くと、戦略思考が上手く廻るようになる。ウラ返しで言えば、戦略思考が下手な経営者が見えてくる。

昨今の経営者の言い訳は非常に単調だ。

「いやー、外部環境が悪くって。」
「不景気がここまでくるとちょっとねぇ」

言語道断である。失敗の責任を外部にゆだねてはいけない。なぜなら、財務諸表のルールは、『資源配分の上手い下手』を競わせているからだ。
そう。業績が悪くなったのは、外部環境が悪くなったからではない。資源配分は下手だから業績が悪くなったのだ。そこに目をむける勇気が必要である。

不調の原因を外部環境に求めたら、そこで成長は止まる。しかし、外部環境の変化に追従できなかった根本原因を自らに求めることのできる企業は必ず復活する。

では、企業の『資源』とは、一体なんであろうか。
個人的には、『資源とは、自ら捨てられる物』だと定義している。ヒト・モノ・カネなど自ら捨てられるものは全てあなたの資源だ。それらをどれだけ上手に使えるかが大切だ。

  あなたは何を捨てることができる?

そこで列挙されたものが、あなたの持つ資源だ。そして、それをつかってどこまで解決できるかが、あなたの実力である。例えば「顧客」は捨てることはできないと思うが、「顧客情報」なら捨てられる。ならばそれを上手く活用できないかと考えればいい。

上手く資源を活用し、運用成績を高める。それが財務諸表が求めるルールなのである。
(2003年5月15日)

SWOT分析の憂鬱

経営戦略指導本のほとんどに載っているのがSWOT分析。誰が考えたのか知らないが確かに便利な分析法である。なんたって、単純なのが分かりやすくってステキ。ちなみにSWOTって何?という人のためにちょろっと解説しておこう。
SWOT分析
内部環境 S:強み(Strength)
W:弱み(Weakness)
外部環境 O:機会(Opportunity)
T:脅威(Threat)

SWOT分析とは、スゥオットと読む。スオットではない。スゥオットだ。スワットという人もいるが、オレはスゥオットだ。どんなものかといえば、企業の外部環境と内部環境を整理整頓するために使うもので、内部環境については「強み」と「弱み」、外部環境については「機会」と脅威」でモノゴトを整理しましょーよ、という分類表なのである。以上!
正直、非常に基礎的なものなので、聞いたこともなかったよ!という方は別途お調べくだされ。

さて、このSWOT分析なのだが、なんとなく経営戦略とか事業戦略とかかなりオオゴトな場面に使うものだよと紹介されているように思える。ところが気が付いてみると、私はかなり多様な使い方をしていることに気が付いた。ほとんどパズル気分である。

例えば日常の営業業務に使っている。「お客さんにどの製品勧めるかなぁ」という程度のときに無意識にSWOT、ちょっとした提案書をつくるときもSWOT、営業日報書くときもSWOT、歯に食べかすが詰まったときもSWOT、ってくらいSWOTなのである。まぁ、私が飲料や食品工場の製造関連設備という高額かつ複雑なシステム製品を扱っているから余計なのかもしれない。しかし、商品特性はあったとしても、営業はSWOTを頻繁に使える環境にあると思っていいだろう。

なぜならSWOT分析とはそれぞれの項目を整理整頓するだけでなく、社会における自社のポジション設定に有効な手法だからだ。外界に何か自社のモノを提供しようという場合には、ほぼ使えるはずだ。いや別に、自分のモノを露出しろと言ってるのではない。そんなもんでキャーキャーいわして喜んでいる場合ではない。

さて、診断士2次試験で事例問題なんかを解いてると気が付くのだが、SWOT分析で迷うのは、何を基準に強みと弱み、機会と脅威を分ければいいのか、という点だ。これに迷うのは、何と比較してよいかが不明瞭、どう比較してよいかが不明瞭だからである。強い/弱いは相対論でしかないから当然だ。逆にいえば、このモノサシを変えてしまうと、強みにしていたモノが弱みになるということはよくある。そのため、教科書的には、企業方針を受けて「S,W,O,T」を分類せよという記述になっているはずだ。

しかし、実際に、方針がきちんと決まっていることなどマレだ。世の中のほとんどの会社は方針を決められず、流されるまま惰性で経営しているのが普通だ。あいまいなまま「とにかくヤレ」といわれる。さてこうなると困ってしまう。SWOTを先にやると分類できない事態が起こるが、SWOTをしないとどういう方針にしないといけないかも決まらない。さてどっちを先にすればいいのだろうか?

私的には、「まぁ小難しく考えずにSWOTをやってみよーよ」ということだと思う。まずは、事実を事実として認識することが大事だからだ。事実をSWOTで実際に書き出し、視覚的に分かるようにすることが、なんにしても先回りなのだ。
私の行う手順はだいたい次のような感じである。
1.強み・弱み・機会・脅威を思いつくだけ実際に紙に書き、視覚化する。似ているモノはひとつにしておく。
2.SWOTのどこに分類していいか迷ったものは、保留として置いておく
3.W(弱み)とT(脅威)を問題点ととらえ、意識して読み返す
4.そのWとTを打ち消せそうなS(強み)・O(機会)を探す。左図のような感じで。
問題点 対抗策
弱み1 強み1を利用
弱み2 機会1があるのでかわせる
弱み3 なし
脅威1 強み2でカバー
脅威2 なし
脅威3 なし
5.改めて保留分をSWOTに分類し、対抗策に使えないか検討する。ここまでくると状況が大体整理されているので、SWOTの分類が可能になってるはず。
6.最後まで対抗策が記入できなかった個所は、別途対策案を考える必要があるので要注意としとく。

ここまでやれば、頭の中にはストーリーが出来ている。お客に弱みを突っ込まれたらこう返して、逆にお客のアソコは弱点だからコレを前面にだして・・・といった感じだ。資料なんかもこれをベースにして作っちゃうからモレがない。突っ込まれたときの裏資料も用意できちゃう。完璧ですね。

ま、だからといって確実に売れるわけでもないんだけどね。って、それじゃー意味ないじゃん・・・ってそこに気付かせんなよ・・・ブルーになる(寂)

(2003年2月11日)

差別化戦略の誤解

普通にサラリーマンをしていると、言葉が上手く通じず困ることがある。その1つが「差別化戦略」。

通常、「差別化する」といえば、それは「他社とは何らかの違いを与えるが、価格は他社より高い」状態を指す。しかし、意外に多くの人が「いまの時代、製品に特徴出してさぁ、それで競争できる低価格で他社との差別化をしなきゃぁ・・・」と表現するのである。これが困る。非常に困る。コストリーダーシップと差別化戦略は原則トレードオフの関係なのに、まるごとごっちゃにしてるのだ。これでは戦術展開なんぞできるわけがない。

誤解の原因は、「差別化」という言葉の一人歩きだろう。いまや差別化が重要だ、なんてことは誰もがあっさり口にする。しかし、ポーターの競争戦略となると意外と知らなかったりする。
差別化という言葉しか知らない人は、差別化を「商品/製品に他社と違った特徴を付与すること」と捉えている。しかし、私的に表現するに、「他社と違った特徴を付与するための、統一された企業活動の結果」が差別化なんだと思う。また、同時に「他社より低価格で販売するための、統一された企業活動の結果」がコストリーダーシップなのでもあるんだと思う。
この「統一された企業活動」という点を押さえると、なぜコストリーダーシップと差別化がトレードオフの関係になるのかが理解しやすい。

ポーターの競争戦略
コストリーダーシップ戦略 差別化戦略
フォーカス戦略

さて、これがポーターの競争戦略。ポーターは史上最年少でハーバード大学の教授になり、現代最も優れた経営理論家とされている人である。つまりとってもエライ人なのである。彼の言っていることを簡単に表現すれば、次のようになる。

コストリーダーシップ(低価格)戦略をとるためには、その方針のもと、全社的に「低価格」を目指さなければならない。それには例えば、製品ラインナップを絞り、製品を標準化し、あわせて生産工程を標準化し、特急注文対応などはせず、その製品の宣伝費を削減し・・・といった方法で低価格の実現を目指す。

一方、差別化戦略をとるためには、その方針のもと、全社的に「差別化」を目指さなければならない。それには例えば、製品のバリエーションを増やしどんな希望にも応えられるようにし、そのためには柔軟に生産ラインを組替えられるような生産設備を投入したり、特殊な生産工程管理ソフトを導入して特急注文にも対応したり・・・といった方法で差別化の実現を目指す。結果としてコストが高額になるため、低価格は非常に困難となる。

・・・というわけで、原則両者は相反する関係にあり、両方を同時に達成することは非常に難しいのである。両方とろうとすると、特に戦術レベルで矛盾がおき、実現不可能な状態に陥る場合が多いのであり、それは当たり前のことなのである。。

「低価格 かつ 差別化された製品/商品」という表現は、非常に耳に良い。そりゃーそんなモノが作れれば売れるさ。しかし出来ないことをヤレと指示したってダメなのである。で、僕の知る範囲では、この手の人が案外多いのである。んなわけで、「差別化」に対する認識差はめんどくさい。「あんた、それムリだよ」と遠まわしに気を使って表現するのがめんどくさい。ほっとくと会議がこう着状態になるのがめんどくさい。いろんな意味でめんどくさいのである。

しかし、以上を理解した上での「低価格 かつ 差別化された製品/商品」への挑戦は意義がある。差別化すれば高価格でも仕方ないのは事実としても、やはり価格が競争要因のメインディッシュになるのも事実。特に差別化が技術的・機能的側面でなされる場合、その技術は必ずいずれ普及する。そうなれば価格競争は必然だ。別の方法で価格競争を避けるように仕組んだ方がベターであるが、価格競争に直面しやすいのも現実だし逃げられない。導入期に差別化された商品を低価格で市場に流す必要はないが、将来に備え低コスト化を計画するのは無論賛成である。

とまぁ今回はかなり基礎的なお話・・・というか私のグチでございました。
(2002年6月15日 土曜日)

マーケティング・マイオピア

セオドア・レビット 彼は1960年にマーケティング・マイオピアを発表している。
何かといえば、「企業は製品/サービスを提供しているのではなく、それがもたらすベネフィット(利便性)を提供しているのだ」という趣旨の論文である。
 例えば、鉄道会社は鉄道事業ではなく自らを移動事業と定義すべきである
 例えば、映画産業は映画ではなく娯楽を提供していると考えるべきである
という考え方である。

マーケティングの概念が広まっている現代では当たり前の考え方であるが、マーケティングが未発達であった当時、これは非常に新しい概念であった。当時鉄道事業・映画産業は衰退期にあったようである。衰退の原因を車の登場、TVの登場としていた各々の事業者に対し、「失敗を外部環境のせいにしてはイカンよ、失敗はあんたらが会社の定義を間違ったからでしょ、あんたら自身の間違いが失敗のモトなんだよ」と指摘したのである。んで、この鉄道事業は鉄道、映画産業は映画を、という発想そのものが非常に近視眼的であり、この見方を「マーケティング・マイオピア(近視眼的マーケティング)」と名付け、注意を喚起した、というわけである。

さて、このマーケティング・マイオピア。現代のマーケティング指南本には必ずといって良い程登場する。しかし、既にあまりに当たり前の概念となったため、取り上げ方は非常に小さい。私も、あー、そいう考えね、という程度にしか感じていなかった。
そんな時、『ハーバード・ビジネス・レビュー 2001年11月号』に当時の論文がそのまま掲載されたのを読み、私はえらい感動してしまったのだ。しっかりと読むと、この「マーケティング・マイオピア」はマーケティングの根本を鋭く指摘した非常に重要な論文である。その概念の一部を紹介しよう。

<販売とマーケティングの違い>
販売 マーケティング
重点 製品をキャッシュに替えたいという売り手のニーズ。
企業の製品と顧客のキャッシュを交換するテクニック。
製品を創り・届け・消費してもらい満足してもらうアイデア。
顧客ニーズを発見・創造し満足させる一連の努力(=事業活動)そのもの。
生産活動の見方 製品を生産するプロセス。原料から生産へ向かう積み上げ発想。 顧客を満足させるプロセス。顧客ニーズをいかに満たすかから生産、原材料へと向かう発想。

特に重要なのは、マーケティングはプロセスそのものだ、ということ。レビットは別の論文で、次のようなことも主張している。

『工場で作られるものが何であれ、市場では例外なく製品の「無形性」が売買されている』

この意味がわかるだろうか?例えばユニクロ。ユニクロは安くてそれなりにイイモノだから、これだけ売れている、とほとんどの人が考えるだろう。しかし、価格はユニクロの競争力の一部でしかない。例えばあのフリースが、その辺の洋品店に乱雑に売られていたらどうなっていただろう?「なんと1900円!」なんて手書きのポップ広告をつけて、メチャ掛けハンガーに無造作に吊られて販売されてたらどうなっていただろう?
低価格がウリだから、店舗には金かけないで・・・という販売方法だってあったはずだが、ユニクロはそのような手段を取らなかった。彼らは、低価格フリースを主軸に店舗、ブランド、店員教育、豊富な色、生産体制・・・といったモロモロ含めてマーケティングを組み立てているのである。より正確には、そのような無形性をマーケティングに付随させ、そのために何ができるかという視点で販売活動をしているのである。そしてこのプロセスこそがマーケティングに他ならないのである。
中国で低価格で生産する体制を取れても、「手書きのポップ広告」ではイカンのである。安いのだからと態度の悪いバイトでもイイヤではダメなのである。

現代どの企業でも顧客満足、ソリューション営業といったコトバを取り上げているが、本当に真意が理解できているのか甚だ疑問である。売価低下に合わせたコスト削減のために、一体どれだけの不満足が顧客に生じているのだろうか?それを企業は理解しているのだろうか?
セオドア・レビット、ボクはあなたは偉大だと思います。マジで。

さて、鉄道事業を「移動事業」と捉えよ、にフムフム当然ぢゃんと思ったあなた!鉄道会社が自らを「移動事業」とした場合、鉄道会社に「おたくは移動を売ってるんだから、車も作った方がイイんじゃない?」と提案しますか?普通は提案せんよねー。だって自動車生産はコア・コンピタンスぢゃないもんね(レビットはこれに近いことを主張している。40年前の論文だから私はその揚げ足をとらんけど)。
つまり顧客ニーズを中心とした場合、今度はコア・コンピタンスとの兼ね合いが問題になると思うわけなんですよ。さて、この兼ね合いをどう説明しましょうか?多角化戦略のマトリックス?うーん、個人的にはそうは思わないんですが、上手く書けそうな気になったら戦略論してみます。
(2001年10月31日 水曜日)
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