戦略
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戦略鍋:生産〜中小企業診断士の偏見的戦略論

生産体制の歴史

注)この「生産体制の歴史」は平成11年 1次受験生の時にニフティFLICSに書いたものの転載です。受験生時代の知識がベースなので、割り引いて参考としてください。

1章  生産体制の歴史 概略


まずは、分かりやすいところで、生産体制の変遷を追っかけてみましょう。生産方式と言えばやはり自動車。フォード、GM、トヨタを例に概観してみます。

1)フォード生産方式

大量生産のはしりと言えば、やっぱりフォードシステム。当時の自動車は贅沢品でしたが、これは逆に生活必需品になりうる潜在的な可能性があったということです。広く民衆に販売していくためにはコスト削減が重要なのは言うまでもないっすね。

そこで、フォードが低コスト化へ向けてとった生産戦略が「単品種大量生産」戦略 ということになります。具体的にはT型車の製造販売に特化することで品種を一つにし、効率的な生産を目指しました。その効果は規模の経済として有名なわけですが、ここではもう少し絞ったところに注目してみます。

単品種にすることで可能になったコスト低減を生産ライン内で考えると、次ぎのようなものになると思います。

  製品を一種類にすると、生産ラインが一本化される。
  すると・・・コンベアシステム、流れ作業ライン組織が作りやすくなる。
  だから・・・同期生産を達成しやすくなる。
  しかも・・・段取り替えの排除、手待ちの排除、が出来る。
  んでもって・・・ラインが流れていくので、在庫の滞留がなくなる(在庫の排除)


といった感じでしょうか。

生産という視点から考えると、コスト削減は「ムダの排除」と同等です。大量に購入するから値引きしなさい という意味での効果は、今回は考えないでくださいね。

で、結局、何が達成できたのかと言えば、同期生産の達成 が最も重要なものとなります。大量生産におけるムダの排除は、ずばり同期化生産を達成する事と言ってしまってもよいのじゃないでしょうか。いずれにしても、これがコスト削減へと繋がりました。
とにかく重要なのは同期化の視点であり、フォード生産方式の本質は何かと問われれば、「全社的・統合的な同期生産体制の構築」という事になります

注)同期生産 とは、いっせーのせ で全体が同時に動き出す事です。なぜこれがムダの排除に重要なのか。簡単に言うと、小売店で店頭に商品を置いたとたんに売れていったら、店頭在庫を排除できますよね。しかも店頭から製品が売れたとたんに仕入が出来たら、バックヤードの在庫もなくなりますよね。これが同期化による在庫の排除です。売れたとたん並べる、並べたとたん仕入する 究極の流れ作業になるわけです。だからムダのない効率的な生産にかかせない発想なのです。


2)GM社のフルライン戦略

消費者に自動車が行き渡るようになると、消費者は好みを言うようになりました。いつの時代も消費者は我が侭です。そこでGMは低価格から高価格までの価格別車種の生産を行い、多品種化を行いました。
この時、GMは組立工程に関しては1工場1車種体制をとりました。A車専用の生産工場、B車専用の生産工場のようなスタイルです。その意味ではフォード・システムを並列的に並べたものであり、生産体制に本質的な違いはないものなのでした。しかし、販売戦略から考えると多品種化を実践したものであり、「量を確保するために種類を増やした」という発想は重要です。

で、多品種化で需要喚起による売上高増大を狙いますが、多品種化は生産の合理性に反します。コストアップ要因です。なぜかといえば、

・単純に品目の数だけ生産システムをいれないかん
・新製品を開発したら、それを作れる生産設備を新たにいれなあかん

といった事だけでもご理解いただけると思います。でも、合理性だけを考えて単品種にこだわっても、売れないなら大量生産そのものが崩壊してしまいます。
ムダが増えると分かっていても、多品種化しなくてはならなかったのです。

3)トヨタ生産方式

出ました、我が国の誇るトヨタ。トヨタはGMの行った多品種化とは違う方法で多品種化を目指します。結論から言いますと、トヨタシステムの意義は「多品種化とともに動揺しつつあるフォード生産方式(同期生産、平準化生産)を再編成する事」にあります。何をしたのかというと、「一ライン多品種生産」を行ったのです。一つのラインに小ロットで部品を流し、違う車種を同じラインで「混流生産」したわけです。

フォードは製品を絞り、ラインを一つにしました。しかしこれでは消費者ニーズに答えられません。売れません。そこでGMはラインを数種類作り、各ラインで違う製品を作り多品種化をはかりました。しかし、それはGM社のところで述べたような、新たなムダを生む事になりました。大いなる矛盾です。トヨタはその矛盾の解決策として、「一つのライン」で「多品種化」する事を目指したのです。

しかし、混流生産を行うと、金型を替える等、いわゆる段取り替え時間(=無工作時間)が発生します。一見合理的な生産方式を選択したかに見えましたが、混流生産は、どうしてもムダな時間が発生してしまう仕組みだったのです。これでは大量生産効果が得られ難くなります。
しかし、トヨタは多能工の育成、段取り替え時間の短縮等により、ムダな時間を大幅に減らすことに成功しました。これで、大量生産効果を保ちながら多品種化するという事にひとまず成功したわけです。


2章  生産体制の比較検討

今までの流れに、前段を加えてまとめると大きく次ぎの三つになります。

1.多品種少量生産体制(職人の手工業の頃のハナシ)
2.単品種大量生産体制(フォードのハナシ)
3.多品種少量生産体制(トヨタのハナシ)*多品種大量生産

分かり難いのがトヨタの生産体制を「多品種少量」と呼んでる事ですね。言うまでもないですが、これは多品種の商品を少量づつ作るという意味であり、総量としては大量生産体制を維持しているわけです。よって、ここでは分かりやすく「多品種量生産」と呼ばさせてもらいます。

さて、ここで重要なのは現代の生産システムは「なんにしても総量を確保しないとダメなシステムなのだ」という事です。まず「量」ありき。「質」はあくまでも「量」を確保するための手段です。企業が多品種化という質的展開を行うのは、そうしないと売れないからであり、やはり「量」を確保する為に多品種化している という事です。つまり、解くべき命題は「量」であって「質」ではありません。総量を確保するために多品種という質的転換を図らねばならなかったわけです。

では、大量生産体制の最大の問題点は何でしょうか?生産システムは 材料の調達〜要素部品の組立〜部品の完成への組立〜販売 という入口から出口までをトータルで考えなければいけません。そこでは、企業側では制御できない「需要」もシステムの一部であるとしなくてはならないのです。
つまり、最終的にトータルでの「同期化」は、「作った分だけ売れてくれない(実際は売れた分だけ作るという発想ですが)」と達成できない という事なのです。
マーケティングの重要性は単純に売上拡大等をその根拠にしてる場合がありますが、生産体制まで含めて考えると、同期化を達成するためにもマーケティングによる需要制御は非常に重要なものとなります。

最近では、この多品種ラインをさらに高度化し、消費の変化に応じて柔軟に生産する製品を変更できるようなラインの構築を目指しています。トヨタがいかに1ライン多品種といったところで、軽自動車とトラックを同じラインで切り替える事はできません。しかし、アプローチとしては、これを何とかやってしまおう という方向で企業は頭捻っているようです。

また、これは雑感なのですが、近年、いろいろな形で情報化を武器にした効率化がさけばれています。でもそれは最終的には 完成品を作る 事に重点を置くべきであり、いかに迅速に販売情報を掴んだって、ものの流れが追従出来なければ同期化は図れないのです。ま、当たり前ですが・・・。


3章 平成11年度 経営情報管理 第2問 に挑戦

H11年度 本試験 経営情報管理 第2問

最近の製造業の特徴は、見込生産、受注生産あるいは個別生産、繰返生産などの形態が混在する( ア )な生産形態であるといえる。生産活動の大きな傾向としては( イ )の方向に向かっており、生産形態としては限りなく( ウ )形態に近づける事が必要である。したがって、今日の製造現場を管理するには、複雑な生産形態に対応できる( エ )が必要になる。しかし、一方で、低コスト及び短納期を実現するには、工場のラインで素材に近いところでは限りなく( オ )形態に近づける必要がある。これまでに、そのような生産形態のジョブショップ
工程の生産に威力を発揮する( カ )や、個別受注生産に対して効果的である( キ )、そして( ク )形態に有効な管理法式である( ケ )などがある。そのうえで、生産管理の容易さから考えると、仕事の流しかたはできるだけ( コ )タイプの工程による生産が望ましいことになる。

[語群]
1.生産統制   2.プロジェクト   3.製番管理   4.見込生産   5.マネジメントシステム   6.個別生産
7.ロット生産   8.受注生産   9.繰返生産  10.マスプロダクション   11.ハイブリッド
12.マスカスタマイゼーション   13.フローショップ  14.カンバン方式   15.MRPシステム  
16.ライン生産   17.プッシュ生産方式   18.座席予約方式   19.日程計画  20.アジル生産


では、解答を検討してみます。

***
「最近の製造業の特徴は、見込生産、受注生産あるいは個別生産、繰返生産な どの形態が混在する( ア )な生産形態であるといえる。」

「混在する形態」から、 11.ハイブリッド が入りそうな気がします。実際に解答を解く時は、一端保留にし、最後に消去法を交えて再検討する必要がありますね。

***
「生産活動の大きな傾向としては( イ )の方向に向かっており、生産形態としては限りなく( ウ )形態に近づける事が必要である。」

これは最近のパソコン業界なんぞを見てると想像できますね。大きな傾向としては 8.受注生産 であり、生産形態としては 6.個別生産 へ向かっています。調達〜生産〜販売 を一つのシステムと考えると、究極的には販売(つまり市場)から溯る形でJITをすれば良いことになります。つまり、売れるモノだけ作ればいいじゃないか!というシステムです。となると、売れ残るリスクを抱える「見込生産・大量生産」より「受注生産・個別生産」の方が優れている事になります。但し、1章、2章で書いた通り「受注生産はコストがかかる」事はしっかり押さえてください。( オ )で必要になります。

***
「したがって、今日の製造現場を管理するには、複雑な生産形態に対応できる( エ )が必要になる。」

う〜ん、迷います。僕は1.生産統制、5.マネジメントシステム、12.マスカスタマイゼーション を候補にしました。12.のマスカスタマイゼーションは聞いた事なかったのですが、「多品種大量」の視点から、マスプロダクトを何かいじくる事かなぁと一応候補にしました。しかし、これも消去法が必要ですね。で、某社模範解答では 1.生産統制 でした。
当てはめてみると、生産面での最適化マネジメントといった意味あいで生産統制がぴったりですね。

***
「しかし、一方で、低コスト及び短納期を実現するには、工場のラインで素材に近いところでは限りなく( オ )形態に近づける必要がある。」

僕は 10.マスプロダクション を入れたのですが、某社模範解答では 4.見込生産 を入れています。大まかな筋としては「個別受注生産に向かっている、しかし、コストを考えると大量生産が必要だよ」となると思います。となると「量」を意識した言葉で、マスプロと見込生産 になるのですが・・・「素材に近いところでは」販売量を予想して大量に抱え込む「見込生産」と考えた方がいいのかな?

***
「これまでに、そのような生産形態のジョブショップ工程の生産に威力を発揮する( カ )や、個別受注生産に対して効果的である( キ )、そして( ク )形態に有効な管理法式である( ケ )などがある。」


「そのような」とは「個別受注だけど量も確保する生産方式」ですね。それを踏まえて三つにわけて見ていきます。
(1)ジョブショップ工程の生産に威力を発揮する( カ )
(2)個別受注生産に対して効果的である( キ )
(3)( ク )形態に有効な管理法式である( ケ )

(1)ジョブショップ工程の生産に威力を発揮する( カ )

「ジョブショップ」「13.フローショップ」を調べてみると・・・

ジョブショップ・スケジューリング:m台の違った機械で、n個の違った製品(ジョブ)を加工する順序を、いくつかの評価基準に基づいて決定する問題
フローショップ・スケジューリング:ジョブショップ・スケジューリングのうち、各ジョブが機械にかかる順序がみんな同じであるという特殊な場合をこう呼ぶ

という事らしい。どうも、多品種混流生産における平準化を解くもののようです。某社模範解答では 7.ロット生産 が入ってます。・・・でもロット生産をする為にジョブショップ・スケジューリングをするのじゃないのかな? 問題文に答を入れてもしっくりこない・・・。どなたか解説してくださいっ。

(2)個別受注生産に対して効果的である( キ )
15.MRPシステム が某社模範解答となってました。うーん、そうなんでしょうか?いまいち分かってないです。

(3)( ク )形態に有効な管理法式である( ケ )
9.繰返生産 形態に有効な管理法式である 14.カンバン方式 が模範解答でした。

まとめると下記のような関係みたいです。ざっと分からない言葉を調べてみて、再度見直したのですが、それでも文章順に素直に解答を入れていくのは難しかったです。廻りと比較しながらどっちがより似合うかを考えながらでないと入らないんじゃないでしょうか?それともご存知の方は一義的につながるのかな?

(1)ジョブショップ工程の生産   7.ロット生産
(2)個別受注生産         15.MRPシステム
(3)9.繰返生産形態 14.カンバン方式(管理法式)

***
「生産管理の容易さから考えると、仕事の流しかたはできるだけ( コ )タイプの工程による生産が望ましいことになる。」

容易さから考えると、単品種大量生産 が良いのは今まで書いたとおりです。というわけで 10.マスプロダクション が某社模範解答になってます。僕は(オ)に入れちゃったので、ここは間違えましたケド。


というわけで、僕の場合、おおまかな線は外してないとは思うのですが、結局、正解は10問中4問でした。この問題は、生産に携わってなかった人にとっては難しかったのではないでしょうか(僕も生産とは関係ない仕事です)。
(1999年10月17日 nifty FLICSにup、2001年11月24日 本HPに転載)
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標準化すればコストが下がるの勘違い(標準化と顧客適応)

「コストを下げるには標準化が必要だ」という話はよくあるが、冷静に考えるとコトはそう単純ではない。
確かに標準化すればコストは下がる。それは間違いないと思ってよい。但し、コストが下がるということと、標準化されたその製品が、売れるか(顧客に受け入れられるか)は別問題だ。「コストがかかっちゃてさー」という社長に、単に「標準化してコストを下げる必要ありますねー」とアドバイスするヒトは、ボクはあまり信用しないのである。

企業が取り得る戦略方針の分類の仕方に、「顧客適応戦略」と「標準化戦略」がある。前者は受注一品生産に近く顧客の多様なニーズに応えようとするものであり、後者は大量見込み生産に近く1つの製品を多くの人・企業に消費してもらおうとするものである。この2つは相反する方向性を持つものであるが、「完璧に顧客適応(又は標準化)戦略」というように一方に極端に偏ることは無い。例えばトヨタは基本として「標準化戦略」をもちつつ「多品種戦略」をとっており、これは顧客適応と標準化の間に位置すると考えてよいだろう。

一般的に標準化を図ればコストが下がり、顧客適応すればコストアップすると言われている。しかし、厳密には両者は等価であり、標準化すると下がるコストもあれば上がるコストが存在する。同時に顧客適応についても上がるコスト・下がるコストが存在する。標準化・顧客適応は裏返しの関係であり、「標準化に向かえばコストが絶対的に下がる」というものではない。結局のところ、コスト削減のために標準化をどこまで進めるかは、「その企業に応じて違う」のである。
それを理解するために、「延期-投機モデル」を使って考えてみよう。

<延期-投機モデル>

(延期-投機モデルの費用曲線の意味)
費用曲線A:顧客対応するために追加的に必要となるコスト(顧客適応しようと一品一品対応していくと設計・製造・流通等社内活動が複雑になる。それを制御するためのコスト)
費用曲線B:標準化するために追加的に必要となるコスト(市場が複雑・多様なため標準化するにあたって必要となる調査コスト・複数ライン整備などのコスト)


さて、何で「投機」「延期」なのかは今回はおいとくとして、このモデルの見方は、標準化を進めると下がるコストもあるが上がるコストもあることを示している・・・だけである。そして、その交点が「最も費用の安い点」として表現されている・・・だけである。
しかしながら、この表は実は意外に便利であり、客観的に企業の特性を考え、標準化企業として生きていくか、顧客適応企業として生きていくかを判断する資料となるメリットがある。この表を使って、「受注生産型の生産財企業がコスト削減に取り組むには、標準化すべきか否か?」を考えてみよう。

そのために、まず市場環境の視点でこの表を使って考えてみよう。

<市場環境と延期−投機>


受注生産型企業がなぜ受注生産をやってるのかというと、個別の顧客それぞれの要求に対応するためである。購入してくれる顧客は、自社にとって最も似合う(他社とはどこかが違う)製品を発注する。購入してくれる顧客すべてが違うものを求めるわけで、この受注生産企業を取り巻く市場ニーズはおそろしく多様であると考えることができる。

このような企業が自社製品を標準化していくためには、市場ニーズの調査コスト、多様なスペックに対応するための多ラインナップ、多ラインナップを実現するための多様な設計・多様な部材在庫など多くのコストを必要とする。
そのため、受注生産型企業においては、市場状況の多様性から、顧客ニーズの不確実性に対応する必要が生じるため、費用曲線Bは左上がりに上昇する(=標準化しようとすればするほどそのためのコストが必要となる=標準化が困難な環境にある)。すると、A・Bの費用曲線の交点は右方向へと移るため、交点は顧客適応に近いところで落ち着くことになる(交点は費用Aと費用Bを合算した総費用の最低部を示す)。つまり、この表を使って考えると「受注生産型生産財企業は顧客適応の方向へ向かうべき市場環境に囲まれており、標準化によりコストダウンすることはそもそも市場環境にそぐわない行為なのだ」ということが分かる。こうして受注生産型生産財企業における市場環境は、顧客対応型の企業体制をとることが求められていることが理解できるのである。もっと分かりやすく言えば、「受注生産型企業は、標準化したら不利な市場に囲まれている」のである。

今、多くの企業ではコスト高が問題となっている。生き残るにはコストを下げていかねばならない。顧客の多様なニーズに応えながらコストを下げるには、費用曲線Aを下げるのが最も適切な考え方である。ここでタイトルに主張したことに戻るが、以上より、そもそも標準化すること自体が市場環境に合ってないのに、標準化を勧めるのは一体どこのバカヤローかってことになるのである。このような企業のコスト削減は、顧客適応をいかに低コストで実現するかに方針を定めるのが定石なのである。
そこで、今度は顧客適応を低コストで実現できるかどうかを表を使って検証してみよう。

<技術的条件と延期−投機>


さっき、受注生産型企業のポジションを市場環境を踏まえて考えた。その結果、顧客適応しなくてはならない市場に囲まれていることが分かった。そのポジションはコスト高であり、普通に顧客適応するとコスト高に見舞われ競争優位に立てない。そこでどうするかといえば、考え方は単純で、「いかに低コストで顧客適応を実現できるか」を考えれば良いのである。この場合は費用曲線Aを下げてやると「より低コスト・より顧客適応」できるポジションを確保できることが分かる。
昨今の情報技術の進展により、費用曲線Aを下げることが比較的容易になっている。例えばFMS(フレキシブル・マニュファクチュアリング・システム)などは情報技術をもちい、1ラインで多様な製品を生産しようとするものだ。またパソコン生産においてもデルコンピュータが、情報技術を用いてニーズが多様であるのにも係わらず3日程度でPCをくみ上げてしまうというビジネスモデルを作り上げた。現在、ほとんど全ての産業で顧客ニーズに応えることが重要という風潮が高まっているが、それは市場が成熟化してきたという背景に加えて情報技術でそれが可能になったという側面を持っているからである。そして、上記図のように費用曲線Aを下げることができれば、より安く・より顧客適応に沿った企業体質が築けることが分かる。

とここまで言っても、「いや、パーツの共有化・標準化とか効果があるぢゃんか」という批判をしたくなる人もいると思うが、それは戦術レベルでの話だ。戦略としては「いかに低コストで顧客適応を実現できるか」であり、戦術として「顧客適応に悪い影響を与えない範囲でパーツの標準化をはかり低コストを実現する」のである。


と、最後まで流し読みした皆様(多分ちゃんと読む人はいないだろうなぁ、ややこしいもんな)。言いたいことは実際は単純です。標準化してコストが下がるということと、標準化されたその製品が売れるか(顧客に受け入れられるか)どうかは別問題だ」ということなのです。あくまでもコストの削減は売るため、利益を出すための単なる手段でしかなく、標準化によりコスト削減ができたけど製品種類が減って製品ラインナップに魅力がなくなった、とかいうのは本末転倒であり、失敗でしかないのです。もちろん標準化が許される市場環境であれば、どんどん標準化しちまって構わない。環境を無視してかってな理論を振りかざすことが非常に危険なのです。そして、どのようなやり方を取れば顧客に受け入れてもらえる形でコスト削減ができるかを考えることが、「戦略を考えること」になるのでした。
※本論は『生産財の取引戦略』(高嶋 克義 千倉書房)をおもいっきり参考にしています。生産財に関する本は稀少なため、大変参考になりました。
(2001年12月31日 月曜日)
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